★キノの旅 やさしい国★                         
                         


ナレ   世界は美しくなんかない…。それ故に美しい…。人間キノと言葉を話す二輪車エルメス。      彼らが出会う人々は少し悲しくて、とても愛おしい…。      『キノの旅−優しい国−』      道は尾根を越え、そこからは下りになる。正面に雄大なU字谷が広がる。      その中に、グレーの城壁に丸く囲まれた国が小さく見えた キノ   実を言うとね、エルメス。今から行く国は、あまり…。いや、かなり旅人の評判が良くない。 エルメス そうなの? キノ   前に言われたよ。 <回想> 旅人A  無愛想でだけでなく、純粋によそ者に冷たい。 キノ   とか 旅人B  とにかく不親切で嫌気が刺すわ。 キノ   とか 旅人A  入国で1日待たされる。 旅人C  ぼられた。 旅人B  もう近づくのもイヤ。 旅人A  あんな国、早く無くなっちまえ。 キノ   などなど。 エルメス それでも行くかなぁ…。キノぉ、道は自由に選べるのに。 キノ   それだから行くんだ。そこまでボロクソ言われるなんて、どんな国なのか興味がある。      それに、少しは良くなってるかも知れないよ。 エルメス ふー……。全く変わってなかったら? キノ   それもまた良し。出国してからぐちぐちと文句を言い合おう。 エルメス wwwま、それもいっかぁ♪とっても思い出深い、一生忘れられない国になるかもよ? キノ   だと良いねぇ… SE   門の開く音 男1   それでは、キノさん。エルメスさん。どうぞお通りください。楽しい3日間を! SE   門の閉じる音 エルメス ……入国に1日かかるんじゃなかったの?あっさり入れてくれちゃったよ? キノ   そうだね、荷物検査一つなかった。 エルメス ひょっとしてぇ…。道間違えた? キノ   いやぁ…そんなことは… 男2   おや、旅人さん。ようこそ、コノ国へ。 女    良くおいでくださいましたわ。 男2   わざわざこの国によってくださるなんて感激です 女    困ったことがあったらなんでもおっしゃってくださいねぇ。ようこそ! 男2   ようこそ!我が国へ!! ナレ   国中の国民がキノの入国に歓迎した エルメス 別の国だぁ〜…。絶対に別の国に来た! キノ   そんなことはない。……多分。 男1   旅人さん、どうかされました? キノ   あのぉ〜。こんな大歓迎を受けると思わなかったので、少しびっくりしています。      えっと…お聞きしたいのですが…。ここらであまり高くないホテルを教えていただけませんか?      部屋かその側にエルメスを置けるスペースがあって、できればシャワー付きの。 女    だったらぁ… サクラ  うちがそうだよ! ナレ   群衆の中から手を挙げ近づいてきたのは、まだ11,2歳ほどの少女だった。      威圧そうな大きな瞳が印象的だ。 サクラ  こんにちわ、旅人さん。私、サクラって言います。 キノ   こんににちわ、僕はキノ。こちらは相棒のエルメス。 エルメス どうも。 サクラ  こんにちわ、エルメスさん。私の両親はスグそこでホテルを経営しています。      きっとお気に召すと思います!いかがでしょうか。 キノ   じゃあ、案内してもらおうかな。 エルメス そだね。ヨロシクッ サクラ  はいッ 男1   いらっしゃい、旅人さん。 母    おつかれでしょう。ささ、荷物をv ナレ   サクラの両親は、満面の笑みと、心のこもったランチで、旅人をもてなしてくれた。 男1   長旅疲れたでしょう。 母    ねぇ。こちらへどうぞ。 キノ   …おいしかった〜…。ベッドの寝心地もさ〜いこ〜…。 エルメス ねぇ…。前評判とずいぶん違うんですけど…。 キノ   ねぇ〜。僕もびっくりしてる。 ナレ   コンコンとノックの音が聞こえ、扉の向こうには サクラ  キノさん、用意はできました? キノ   あ、はーい。今… エルメス 何? キノ   街をね。案内してくれるんだって。 エルメス じゃ、即席で後部座席を作らなきゃ♪ キノ   あぁ。 SE  鶏。コケコッコー? エルメス キノ、何処行ってたのさ。 キノ   おはようエルメス。その辺を、朝の散歩にね。 エルメス ふーん…。で、何か良いことあった? キノ   うん。ジョギング中の人に、腕のいいパースエイダースミスの店を教えてもらえたよ。      エルメスも今日はえらく目覚めがいいんだねぇ…。 エルメス うん♪昨日バッチリメンテしてもらったし♪ キノ   珍しいね。エルメスが喜んで直してもらうことって滅多にないのに。 エルメス 機械工のおっちゃん、腕が最高だったんだぁ♪あ、それに、どこ行っても気分良かったよ♪       キノ   うん。買い物をするにしても、どの店も安かった。 エルメス それにもう一つv キノ   小さなガイドさん? エルメス だね☆ キノ   今日もまた、僕らの案内をしてくれるって。 SE   ドアの開く音 店主   誰だい?今日は休みなんだ。いや、明日までだ。明後日なら… サクラ  こちらのキノさんは旅人さんで、明日までしかいないんです!      パースエイダーの修理をお願いできませんか!? 店主   旅人…。どれ…。 キノ   これです。 ナレ   キノは大切そうにパースエイダーをスミスの前に差し出した。      隅々まで点検をしていると… 店主   こ…!これは…。おどろいたなぁ…。長生きはするもんだ…。 キノ   …どうでしょう…。 店主   分かった。私で良ければこいつをいじらせてもらう。      ん〜…。だいぶガタがあるようだ…。しばらくかかる、昼過ぎくらいかな。      ちょうど裏の公園で祭りをやっているから、時間つぶしにゃいいだろう。 キノ   …でわ、お願いします。 ナレ   公園では、花火を鳴らしたり、どんちゃん騒ぎが起こっていた。      そして、もう一度店に入る。 店主   できてるよ。とても良いパースエイダーだ。大事にするがいい。 キノ   ありがとうございます。…!驚きました…。コレを手にした時以上です…! 店主   そうかい…。 キノ   ありがとうございました…!お代はいかほどですか? 店主   いらん。 キノ   …え? 店主   旅人さんは、パースエイダーの有段者だろ? キノ   えぇ…まぁ…。 店主   そこでちょっと聞きたいんだが、昔、自ら仕込んだ教え子に、自分を師匠と呼ばせている凄腕の      有段者がいた。旅人で、あちこちのトラブルに首を突っ込んでは睨まれたり、感謝されたり…。      …腕が立ちすぎたんだな。……旅人さん、知らないかな…。 キノ   ……いいえ、知りません。 店主   ……分かった、ありがとう。修理代はいらんよ。それとな、こいつを見て欲しい。 キノ   22口径…。自動式パースエイダーですか。良い物ですねぇ…。このタイプを見るのは初めてで す。 店主   誕生当時は森の人と呼ばれたヤツだ。旅人さんに使ってほしい。もらってくれ。 キノ   えぇ!! 店主   そいつは昔、私が旅をしていたときいつも腰に吊っていた物だ。もう何十年も使っていない。      私は歳をとったし、旅にも出ない。だが、そいつを私と一緒に朽ち果てさせるのは惜しい。      昔みたいに、そいつに旅をさせてやりたいんだ。 キノ   …そうですか…。…ッでも…。 店主   受け取ってくれるね? キノ   ・・・・。あの…。 店主   受け取ってくれるだろう? キノ   ・・・・僕は…。 店主   受け取ってくれるな?       キノ   ・・・分かりました。使わせてもらいます。 店主   よっしゃ!!そうこなくちゃな!ついてこい!区政を教えてやる。      店の裏に試射室があるんだ。 キノ   …え。 店主   ホルスターもグリッフもいじってやる! キノ   あ…!でも…、、、 店主   さぁさぁ!さぁ! キノ   あぁぁあのぉ!! ナレ   店主に強引に連れられるがままに、試射室に行くキノ。 エルメス …行っちゃったぁ…。 ナレ   数時間経ったころ… エルメス あーあ…。もう夕方になっちゃったよ? キノ   悪かったよ、お待たせして。まさか300発も撃たされるとは思わなかった…。 エルメス あぁ…サイで。 キノ   でも〜…。これどうしようかな…。 エルメス 使えばいいじゃん。せっかくもらったんだし。 キノ   簡単に言ってくれるな。22口径の自動式なんて吊ってるとこ師匠見られたらになに言われるか …。 エルメス 何も言われない。撃たれる。 キノ   ・・・。 エルメス あ、ところで、なんで知らないって言ったのさぁ。 キノ   師匠に、将来もしもの事があったらそう答えるように言われたんだ。       エルメス なるほど…。キノの身を案じてのことだね。 キノ   あの人は昔…一体何やらかしたんだ? サクラ  あの、ホテルに戻る前に、是非お連れしたい場所があるんですが。 SE   扉が開く ナレ   旅人達は、サクラの案内で城壁までやってくると、作業小屋にあるエレベーターで、      城壁のてっぺんを目指した。 キノ   すごいねぇ…! エルメス キレーー…。 ナレ   そこは、赤かった。沈んだばかりの太陽が、空を赤く染めている。      濃くて、そして透き通るような赤だ。遠くには、連なる峰のラインが、くっきり見えた。 サクラ  ここが私の一番好きな、一番素敵だと思う場所です。いつか、お客さんが来たら、      絶対案内しようと思っていて…。キノさん達が最初です! キノ   光栄だなぁ。 サクラ  ねぇ…。キノさんは旅をしていて、嫌な事とか、辛い事とかあります? キノ   あるよ。たまにね? サクラ  それでも旅を続けるのは、自分のすべきことだと思っているからですか? キノ   やりたいことだと思っているからさ。 サクラ  私、将来はお父さんやお母さんの後を次いで、立派なホテルの支配人になりたいんです。      そして、この国の、素敵な観光案内人になりたいんです。なれるかな…。 キノ   なれるさ。あ、いや。もうすでに立派な案内人だよ。この2日間、僕はとっても楽しかった。 エルメス 上の同じ。こんな素敵な国には、こんな素敵なガイドさんが似合うね☆ サクラ  ありがとう。キノさん、エルメスさん。私ね、もっと大勢の人にこの国を知ってもらって、      楽しい思い出を作っていってほしいの。もっと…もっと…。 ナレ   そして3日目。この国に、別れを告げる朝が来た。 エルメス どうしたのさぁ。キノ〜。 キノ   太陽がもうあんなに…。寝過ごすなんて、体の調子が狂ったのかな…。 ナレ   その日、キノとエルメスは、サクラに、近くで営まれた結婚式に呼ばれた。 女    おめでとう!幸せにね!?w 男1   よっ!お二人さんvv エルメス 2人とも、まだ10代後半くらい?ずいぶん早く結婚するんだね。 サクラ  普通は、二十歳過ぎてから結婚するんですけど。 ナレ   急に女性のキャーキャー(キャー q(≧∇≦*)(*≧∇≦)p キャー←イメージ)声が上がった。 エルメス 何ごと? サクラ  新郎新婦が小さな袋をたくさん投げるんです。その中に木の種が入った袋が、いくつか混ぜて      あって、その種を持って、明日の朝を迎えた人が次に幸せな花嫁になれるって言い伝えがあって      、あぁ…!もう投げるのかなぁ…。 キノ   行こう。僕も一緒に探してあげる。 サクラ  良いんですか!? ナレ   数時間後… サクラ  …。やっぱり入ってないなぁ…。 キノ   はい、これ。 サクラ  え…?…?わぁ〜!大きな種!すごいキノさん!どうして!? キノ   昔から運だけはいいんだ。 サクラ  もらっていいんですか? キノ   もちろん。案内のお礼には足りないかもしれないけれど。 サクラ  そんなことないです!うわ〜w嬉しいっ!!wありがとうございます!! ナレ   ホテルに戻ると、そこには丸腰の兵士が数人立っており、キノに敬礼したあと、予定の滞在期間      が終わった事。そして、即刻退去するようにと、丁寧に告げた。 キノ   あの〜…。もう1,2日、滞在できませんか? エルメス ぇ゛えぇええぇ!?!?!?!?!?!?キキキキキ…キノぉ!どうしたのぉ!?!? キノ   いやぁ、なんとなく。そんなに驚くなよ…。 男2   残念ですが、許可できません。ルールですから。…出国準備をお願いします! SE   門の開く音 ナレ   城門前には、来たときと同じように、たくさんの住人が集まってきた。      今度は、旅人を見送る為に。 サクラ  キノさん、はい、これ。お母さんと一緒に作った野外食です。      こっちは今夜食べて、もう一つは、明日の朝用です。 キノ   ありがとう…! 母    キノさん、サクラがなにかご迷惑をかけなかったですか? キノ   とんでもない!迷惑どころか、とても楽しい時間をもらいました。 サクラ  えへへ…w 母    そうですか。ねぇ、サクラ。サクラさえ良ければ、旅に出ていいのよ? サクラ  え? 母    キノさんみたいにあちこちを回って、いろいろ見て。勉強して。それからここで案内人になって      もいいじゃない? サクラ  ん〜…。 母    どう? サクラ  ううん。あたしはどこにも行かないよ。ここで勉強して、ここで一番の案内人になる。      それが私の夢だもん! 母    そう…wそれもいいわね^^ SE   バイク音 キノ   それでは…。みなさんも、何もかも本当にありがとうございました。      僕はいろいろなところを見てきましたが、こんなに親切にされて、楽しかった国は初めてです! 店主   お礼を言うのはこっちだよ。旅人さん。 女    ホント、良くこの国に来てくださったわ。 サクラ  オホンッキノさんに、エルメスさん。本当に、ご滞在、ありがとうございました!      今度は是非、素敵な方と一緒に、ハネムーンでいらしてください! キノ   えぇ。またいつか! ナレ   旅人を見送り、皆、口々にまたいつか!さようなら!と言っているのがキノは聞き逃さなかった      夕方まで走ると、ちょうどあの国が見下ろせる尾根についた。遠く、小さな明かりが揺れている       キノ   さてと。そろそろ休もうか。 エルメス そうだね。でも、珍しいね。キノが3日以上の滞在を望むなんて。 キノ   あぁ。自分でも十分驚いているよ。 エルメス 天変地異の前触れか?w キノ   失礼な!クスwあははww エルメス www。良い国だったね。 キノ   あぁ。とても楽しかった。 エルメス 噂と全然違ったね。なんでだろう。 キノ   さぁね。最初は気になったけど途中からどうでもよくなったよ。      もし、僕が他の旅人にあの国について聞かれたらこう言うことにするよ。      とても優しくて、丁寧にもてなしてくれた素敵な国だったって。      それじゃあ、そろそろ寝るよ。あとはヨロシク。 エルメス 了解っ ナレ   急に心臓の鼓動が早さを増し、起きあがり銃を構えるキノ。 エルメス …?キノぉ?どうしたの?まだ真夜中だよ?何も異常ないよ。パースエイダーなんか… キノ   眠れない…。何か、嫌な感じがする…。なんか、こう…。砂をかじる感触があるんだ…。 エルメス とくになにもないよ?気にしすぎじゃ…。…!!あぁ!! SE   火山の爆発する音 ナレ   それは…北側にそびえる、高い山の中腹でいきなりおこった…。      月明かりの下、まるで、夏の入道雲の様に盛り上がった山肌は、やがて、端から順次崩壊      しながら、猛烈な速度で斜面を舐めるように下ってゆく…。まるで…あの国を目指すかの様に… 。 キノ   なんだあれ!!! エルメス 記憶が正しければ、パイオ・クラスティックフロー。火山灰とか、軽石が高温で吹き出して      流れ…。 キノ   火砕流か! エルメス そう、それ!! ナレ   彼らが見下ろすそこにはもう…。あの国の小さく灯った明かりはなかった…。 キノ   今から僕があそこにいって、なにかできることはあるか? エルメス (冷たく)ないよ。火砕流は摂氏1000℃近い。人なんてあっと言う間さ。      あれじゃ全員死んでる。キノが逝っても死ぬだけだよ。 ナレ   そして…。いつものように日は昇り、旅人はやっとパースエイダーをホルスターに戻した。 キノ   朝食を取ったら、出発しよう。 ナレ   キノは、黙って全てを食べた。そして包みを畳もうとして、一通の封筒と、もう一つ…      小さな袋に気がついた。 キノ   手紙だ…。サクラちゃんのお母さんから…。 エルメス 読んで。 キノ   キノさんへ…。エルメスさんへ…。 母   『キノさんへ。エルメスさんへ。      私たちの国を訪れてくださった最後の旅人さんへ。      あなた方がこの手紙を読まれているとき、私たちの国は、そして私たちは、火砕流に焼かれ、      灰の下に埋もれていることでしょう。      あの山の噴火と火砕流について知ったのは、ちょうど1ヶ月前でした。      私たちは、国を捨てるか。捨てないか話し合い、そして、答えを出しました。      この国に留まると。旅人であるあなた方には、この行動が愚かに映るかもしれませんが、      私たちはここで生まれ、ここで育ってきました。      他の場所を知りません。他の生き方を知りません。      それから私たちは、運命を呪うことなく、ある種のすがすがしさを感じながら、      精一杯、生きて参りました。      ただ一つの気がかりは、この国のことを誰かに覚えていてほしい。      せめて思い出の中に存在したい。と言う事でした…。      が、私たちは愕然としました。ご存じかどうか、私たちの国はそれまで立ち寄ってくれた      旅人に対して、大変不遜な態度を取ってきていたのです。』 <回想> 男1   このままでは、我らは失礼な民とでしか、人の記憶に残らない… 母    そんな…。 男2   せめて、これからもし誰かがこの国に立ち寄ってくれることがあれば、      出来揺る限りの歓待をしようじゃないか! 女    そうね…。そして、私たちの記憶を、素敵な物として、残してもらいましょう…。 店主   そうですね…。そうですとも!旅人に、最高のおもてなしを! 母    『みんなが、こころからそう誓いました…       でも、皮肉なことに旅人は全く来なくなりました。       それまでの悪評が祟ったのかもしれませんね…。       そして、あともう3日しかないと、私たちが諦めかけたときに、キノさん。エルメスさん。       あなた方が来られたのです。我が国を代表して、心よりの歓迎と感謝を捧げます。       キノさん。エルメスさん。ようこそ、我が国へ…。       追伸:事実を知らされているのは、国民の中でも賛成権を持つ12歳以上だけです。       サクラは、噴火の翌日、ちょうど、12歳の誕生日です。       大変身勝手な行動だと思われるかも知れませんが、あの子は、私たちが連れて逝きます。』 エルメス なるほど…。それでか…。納得した…。         <回想> 母    サクラさえ良ければ、旅に出ていいのよ? サクラ  ううん。あたしはどこにも行かないよ。 <回想終> キノ   ……エゴだよ…。これはエゴだ…!! エルメス そうかもね。でも…もうどうしようもない…。どのみち、2人乗りで旅は無理さ。      ねぇ、その袋…それって、結婚式で拾ったやつじゃない? ナレ   そしてそこには、きちんと折り畳んだ手紙が1枚。 キノ   『これは私、サクラからキノさんへ。       この種は、私が持っていても仕方がありません。あなたのです。お気をつけて。       私たちの事を…。忘れないで…。    サクラ…。』 ナレ   旅人は、長く息を吐き、天を仰ぐと、しばらくそうしていた。      それから、袋と手紙を荷物の中に丁寧にしまうと、パースエイダースミスからもらった      『森の人』を取り出し、ホルスターに納め、背中に飾った。 エルメス うん。似合うよ。 SE   バイクの発進オン エルメス 良い国だったね。 キノ   ぁぁ。楽しかった。とても。文句の良いようもないさ。…行こうか。 エルメス そうだね。 ナレ   キノは、一度だけ振り返り、灰色に塗られた緩やかな谷を見た。      灰色の下に沈んだ国を見た…。そして、旅人は前を向いた。 キノN  だからと言って、旅を止めようとは思わない。止めることはいつだってできる。      だから…続けようと思う…。 キノの旅 完